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「指揮官が見据える先」網野 友雄コーチ(日本大学男子バスケットボール部)
「今年は、変革期を迎えています」
大学バスケットボール界で、この言葉が聞かれることは余りないのではないだろうか。
仮にその言葉が使われたとしても、終わってみれば特別な変化なし、ということも少なくない。
そのくらい、学生バスケにおいて、チームの戦い方を変えるということは難しいことなのかもしれない。
2015年、まさに変革期を迎えているのが、日本大学だ。
関東大学バスケットボールの2部リーグに所属し、多くのビッグマンを擁する大型チーム。
春先のトーナメントでは7位の好成績を収め、シーズン後半での活躍も期待される。
だが、これまでの歩みが順調だったわけではない。
現在の4年生が期待の新人として入学してきてから、毎年のように「今年は日大が強い」と言われてきた。
選手たちのやる気も十分だったはずだ。
それでも、結果を残すところまで行き着けない。
個々の能力も、サイズも、爆発力も、1部リーグのチームにも引けをとらないレベルを有していながら、空中分解のように自分たちでリズムを悪くしてしまう試合が多かった。
今年こそは、一段階上のステージへ。
「変える」ことには大きなエネルギーが必要だ。
チームのコンセンサスは一朝一夕で得られるものではないし、変革が必ずしも良い方向に転がるというわけでもない。
活躍する場を得る選手もいれば、厳しい現実と向き合う必要がある選手もいる。
日大は何を目指して、今変わろうとしているのか。
網野コーチの胸の内を聞いた。
ー日大の現在のチーム状況を教えてください。(※取材日は8月末)
「8月に入ってからは合宿期間でかなり追い込んでやっているので、選手たちにはかなり疲労が見え始めています。もちろん必要な時期なので、少し追い込みながら、バスケット自体は僕が教えているものが、だんだんと理解していきているメンバーも多いので、そこをもっと突き詰めてやっていきたいな、という段階ですね」
ーコーチが求めているバスケットボールは具体的にはどういったバスケでしょうか。
「全員でボールをシェアして、チームでバスケットができるように。チームでオフェンスをしっかり動きの中から組み立てて、1対1だけで攻めるのではなく、チームでその時の一番良いシュートが打てるように、あとはチームで助け合いながらディフェンスをする。そんなチームバスケットを目指しています」
ーいろんな選手を使うのもチームバスケットの表れですか?
「そうですね。使えるメンバーは多いにこしたことはないので、出場時間が短い中でも、各選手が集中してやってくれれば、他の選手にもチャンスが出てきますし、そこでしっかり実力を発揮してくれれば、チームの底上げにもなると思うので、そこは意識しています」
ートーナメントと新人戦を通して見えてきたチームの課題を教えてください。
「まぁ、気持ちのムラの部分をなくすというところと、あとはどうしても疲れが溜まってきたりとか、上手くいかない時に甘える部分も出てきてしまうので、そこらへんの精神的な弱さっていうのを少しでもなくして、自分たちで現状の100%を出すことができるようにするのが今の課題ですね」
ーチームの流れや雰囲気が悪くなった時に、率先して引っ張っていく選手は誰でしょうか。
「キャプテンの古牧は、そういうことを積極的にやってくれますし、あとは2年生の上村は、試合には今の現状では絡む選手ではないですけど、チームの中で声を出したりとか、常に全力でプレイをしてくれるので、チームに与える影響を考えてAチームにいれています。あとは3年生の門馬もそういうことが自然にできる選手ですね」
※
古牧 昌也(4年/SG/186㎝/市立船橋高校)
上村 悟大(2年/SG/181㎝/世田谷学園高校)
門馬 圭二郎(3年/SG/186㎝/白樺学園高校)
写真:主将の古牧 昌也(4年/SG/186㎝/市立船橋高校)
ーディフェンスが春先よりもタイトになっているなという印象を受けたのですが、チームとして意識して取り組んでいるのでしょうか。
「そうですね。やっぱりディフェンスをやらないと勝てるチームにはならないと思っているので、そこは一番の課題ですね。徹底して今後もやっていきます」
ー今までの日大のイメージは早いバスケットを展開して、点をたくさん取るイメージだったのですが、ディフェンスを強化し始めたのはいつ頃からだったのでしょうか。
「うーん…それは今年の春からですね」
ーディフェンスの練習は地味で辛いと思うのですが、ディフェンス練習を強化した時の選手の反応はいかがでしたか。
「最初は、習慣にもなっていなかったので、難しい部分もあったのですが、最近は理解もしてきていますし、やろうとする姿勢も出てきているので、そこから良いプレイが生まれるということも理解し始めているので、現状はよくやっていると思います」
ーリーグ戦についてお伺いします。日大は一部昇格が目標になると思うのですが、長いリーグ戦を戦ううえで一番大切にしたい点はなんでしょうか。
「まず、どんな試合でも入り方の部分ですね。先手必勝が必要になっていきますし、悪くてもトントンで我慢して試合を運ぶためにはやっぱりディフェンスが必要だと思いますね。まぁそこでずっと我慢してて最後に4ピリで勝ちきることができるような我慢強さと粘り強さが必要になってくるので、そのためにも気持ち的な部分を安定させて常に戦うというところですね。まずは自分たちのことに集中してやっていかないとなと思っています。」
ー2部は今年も混戦かと思うのですが、特にマークしているチームなどはありますか。
「いや。まぁ何個かはありますけど…それよりは、まず自分たちのことですね。自分たちがどれだけ試合に集中できるかというところの方が割合は大きいですね」
ー今シーズンの終わりに日大がどんなチームになっていることが理想ですか?
「学生たちにとっては、特に4年生にとっては最後の1年ですし、4年間という限られた時間の中でバスケットボールができるのは恵まれていると思います。なので、どんな選手であっても、4年間が終わった時に、最後やりきったという充実感を得てほしいですし、そのために自分たちがどういう練習をして、どういう風になりたいのかということは日頃から問いかけているので、各選手が思い描いた姿というのに近づいていれば。まぁそれが良いんじゃないかなと思います。もちろん、チームとしては1試合でも多く試合をして、1勝でも多く勝ちを積み上げるというのが目標にはなりますが。数字という面は一番わかりやすいので、そこも求めてやっていきたいですね」
最後に、「2部リーグ優勝します!と言った方が良かったですかね?大丈夫ですか?」と笑いながら締めくくった網野コーチ。
少しずつではあるものの、確かな手応えを選手とともに感じているようだった。
「今年こそ」
この言葉が日大の選手から聞かれるのも、いよいよ今年限りになるのか。
まだ見えぬ先の、大きな舞台へ。